大判例

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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)10801号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

原告は不法行為に基づく慰謝料として金一〇〇〇万円の内金九〇〇万円を請求したところ、本判決は判旨のように判示して金二〇〇万円の限度で認めたが、被告の弁済の抗弁を容れて本請求そのものは棄却した。

【判旨】

一原告は、昭和三〇年二月一五日にA子と婚姻し、両名間には同三二年八月一七日に訴外○○○○、同三四年七月五日に同○○、同三六年三月五日に同○○○、同三七年九月一日に同○○、同三九年一月一四日に同○○がそれぞれ出生したこと、被告は、小学校の教師をしていたが、原告とは少年時代からの親友であつたことから原告に頼まれて右○○らの家庭教師もしたことがあつたこと、その後、被告とA子は肉体関係を持つに至り、その結果A子は妊娠し、昭和四三年四月八日訴外▽▽▽▽(以下、▽▽という。)を出産したことは当事者間に争いがない。

二<証拠>を総合すると次の事実を認めることができる。

1 原告は、A子と婚姻した後一時は栃木県○○町に住んでいたが、昭和三〇年の暮頃仕事を捜しに東京に出て来て屋台の仕事などをした後、同三二年初頃から品川区大井の○○町で電球製造の仕事を始めるようになり、その頃A子も東京へ出て来て一緒に生活するようになつた。

2 ところが、それから間もなく、原告は、大井町の小料理屋で働いていたB子と知り合い、一時B子が住んでいた渋谷区神泉のアパートへ泊るようになつた。

その後、原告は、昭和三三年頃に工場を品川区大井町▽▽に移し、さらに大田区○○に工場を移転してそこを本社とするようになつたが、△△にいる頃からB子を従業員として雇つて工場に住み込ませて一緒に生活し、時折A子の方に帰るという生活を続け、B子との間に同三六年に一子「○○」をもうけた(このことは当事者間に争いがない。)。

A子は、原告に対し、B子と別れてくれるよう頼んだが、原告はこれに応ぜず、A子も子供のために原告と別れる決心がつかず、原告とB子の関係を黙認せざるを得なくなつた。

そして、その後、原告は、茨城県にも工場を開設し、週の半分は茨城の方で仕事をするようになつたため、東京にいる時は主としてB子のいる本社におり、A子方へは週末に顔を出す程度になつてしまつた。

3 被告は、原告に頼まれて昭和三八、九年頃から原告の長男の家庭教師としてA子方を訪れるようになつたが、そのうちにA子の境遇に同情するようになり、またA子も子供に勉強を教えてくれたり、遊びに連れて行つてくれたりして面倒をよく見てくれる被告に好意を持つようになつた結果、同四二年夏前頃から両名は肉体関係を結ぶようになり、二人の関係は約半年位続いた。

その結果、A子は妊娠し、昭和四三年四月八日東京都品川区大井にある○○医院で▽▽を出産したが、▽▽は原告とA子との五男として同年四月二〇日に出生届がなされた。

4 一方、原告は、昭和四三年二月頃からは岩手県に工場を移したためほとんど岩手にいるようになり、A子方へは月に一、二回顔を出す程度となり、さらに同五一年頃からは電球製造の仕事をやめて岩手工場できのこ栽培を始めたこともあつてほとんど帰宅することがなくなつた。

5 原告は、▽▽が小学校へ入る頃になつて、同人の顔があまりに被告の顔に似ていることから疑念を持つに至つたが、そのことでA子や被告に問い質すことはしなかつた。

ところが、昭和五五年七月頃、A子と財産の処分のことについて口論したことから意を決し、被告にそのことを問い質したところ、被告がこれを認めたために▽▽が被告の子であるという確信を持つに至つた。

なお、原告とB子との関係は、昭和五一年頃まで続いたが、その頃から原告が同女方を訪れなくなつたために跡絶えた。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

三ところで、被告は、被告とA子が肉体関係を結ぶに至つた時点においては、すでに原告とA子との間で離婚の合意ができており、右両名の婚姻関係はすでに原告の不貞によつて破綻していたものであると主張するのでこの点について判断する。

そして、なるほど証人○○A子の証言及び被告本人尋問の結果中には昭和四二年頃A子と原告との間で協議離婚の合意が成立し、A子が離婚届に署名押印した旨の供述があるが、右両名の供述にもくい違いがあり不自然であるばかりではなく、前掲各証拠によれば昭和四三年四月二〇日になされた▽▽の出生届には父○○○○<編注・原告>と記載されていることや、▽▽が生れた際には原告の母親がA子の手伝いに行つていること、▽▽が生れた時には特にその父が誰であるかは問題とはならなかつたことなどが認められるが、これらの諸事実からすると、少くとも▽▽が生れる頃までは原告とA子との間で性的関係があつたことは明らかであり、A子においても原告と正式に離婚が成立していないことは知つていたものと認められこれらからすると右A子及び被告の供述はとうてい措信しがたい。

また、前認定の事実及び右認定の事実からすると、A子と被告とが関係を持つようになつた時点においては、原告とA子との婚姻生活はまさに破綻に瀕していたものではあるが、完全には破綻していなかつたものというべきであるから、被告の右主張は採用しない。

四以上からすれば、被告は、A子には夫があることを知りながら同人と性的関係を結んだものであるから、被告の行為は原告の夫たる地位を侵害するものであり、不法行為に該当し、したがつて、被告の右行為によつて原告が受けた精神的苦痛を慰藉すべき義務があるというべきである。

そして、前認定の諸事実からすれば、原告が被告の行為によつて精神的苦痛を受けたであろうことは容易に推認しうるところであり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

五そこで、次に慰藉料額はいくらが相当であるかにつき判断する。

前認定のように、被告は、原告の少年時代からの親友であり、原告に頼まれて原告の子の家庭教師をしているうちに原告の信頼を裏切りA子と関係を持ち、子供まで生れたのに原告にそれを告げず、その子は原告の嫡出子として届出されていることなどからすると、原告のそれによつて受けた精神的苦痛は決して小さいものではないと推認しうる。

しかしながら、他方、原告は、A子と被告が関係を持つ以前にB子と関係を持つて同人に子を生ませ、A子にはB子との右関係を長期間にわたつて黙認させてきたものであつて、その結果、A子との婚姻関係は完全に破綻していたとまでは認められないもののまさに破綻に瀕していたものといわざるを得ないことからすれば、本件被告とA子との不貞行為につきA子を責めることはできないばかりでなく、A子と合意のうえで性的関係を持つた被告を強く非難することは、あまりにも原告の身勝手といわざるを得ない。

そして、右事情の他、本件に現れた一切の事情を勘案しても被告が原告に対して支払うべき慰藉料額は金二〇〇万円を超えるものではないと認めるのが相当である。

(高田健一)

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